お父さん自身が挫折を知っていたから、
厳しく言わずに済んだのかもしれない
ところで、G1さんのお話を聞いていると、ご両親がとにかくG1さんに「こうしなさい」とうるさく言うことがいっさいなかったということも、G1さんの人格形成や、不登校から立ち直っていった道のりに非常に大きく影響しているように見えるのです。
子どもが危機に面しているときに「口を出さないで見守る」という態度を貫くのって、いちばん難しいことじゃないかなと思います。
ハーモニィカレッジ編で登場した大堀さんも「子どもに対しては大人はお口にチャック、手は後ろで口出しをしないで見守る。これがいちばんきつい修行だった」と言っていたことが思い出されます。
どうして「いっさい口を出さずに見守る」ということができたのか、お父さんにたずねてみました。
私は企業の中での競争では早々に負けましてね。自分は競争に打ち勝って、バリバリと出世していくというタイプではなかったんです。
上司も性格をよく見抜いてたので、競争の激しい部署からは移動になりました。
私は企業の表の華やかなところも、裏も知ってるタイプで、どちらかというと企業人としては、出世競争に残れないで落ちこぼれたというような立場だったんです。
だから、もしも自分がバリバリと出世競争の中で勝ち抜いていったような親だったら、もしかしたらG1に「もっと〜しないとダメだろう!」「もっと〜しろ!」と、厳しく言っていたのかもしれないですね。
それと、自分の父親の遺伝もあるのかなと思います。
父親は戦争前に思春期を生きてるから、その時代だと高等教育は受けられなかった世代なんですね。それで息子の私の教育についても口を出しようもなかったというのもあると思うんですけど、勉強をしろとか、なんにも言わない人でした。
自分が親になにも言われてないので、我が子にもなにか言うという考えがなかったのかもしれないですね。
なるほどなあ。もしかしたら、お父さん自身も仕事の上で挫折を感じていたのかもしれないなあ、と思いました。でもだからこそ、息子の状況に対して共感を寄せて、ゆったり眺めることができた、という面もあったのかもしれません。
辛い思いや悔しい思い、失敗や挫折だと感じるような体験って、誰にとっても嫌なものだと思いますが、そういう体験をすると、人の辛い気持ちがよく分かるようになったり、人の苦しみに寄りそえる豊かな人間性や想像力が培われる面があると思います。
人間ってどうしても、自分も同じような体験をしないと、人の辛さが分からないところがあると思うのです。
辛い思いをした人は、他人の気持ちをよく思いやれる人に成長できる、というところがありますね。
人間の「器」とか「懐」といわれるものって、辛い体験を抜けるからこそ育っていくようにも思います。
さて、次回はいよいよ連載の最終回となります。
G1さんも、不登校という挫折体験があったことが、人間的な器の成長にも大きく影響しているようです。もう少しお父さんのお話もうかがいつつ、不登校の道のりを通じて、G1さんが摑んでいったものについてうかがいたいと思います。
ぜひ読んでくださいね!