理論社

第17回

2021.01.15更新

自分の道を見つけたい! 第17回 G1さん篇5

自立しようとしている男を、家庭内だけで育てあげるのは難しいと考えた

G1さんのお話を聞いていると、お父さんと性格や考え方に共通項が多いようすがうかがわれ、お父さんの考え方や生き方はG1さんの道に少なくない影響を与えているんじゃないかな、と感じられました。
けれど、G1さんが不登校になったきっかけは、お父さんの会社の転勤によって、まったく友だちのいない状態から中学生活をはじめないといけなくなったからで、ある意味では、お父さんの都合で子どもが不登校になったという状況とも言えるわけですが、G1さんが不登校になったとき、ショックを受けたり慌てたりもしたのでしょうか、とたずねました。

お父さん お父さん
大きくショックを受けたということは、なかったですね。
当時、「転校する」ということが不登校のリスクになるということは、ご近所さんや小学校の先生から聞いて、わかっていました。それでも仕事ですから、転勤を断るということはできないので、転校させないという選択はできなかった。

だから、不登校になるかもしれない、という悪いケースがあることも見込みに入れた状態で転校させるという決断をして、その上でG1がすくすく成長できるか、新しい環境で生活していけるのかを見守る、という考えでした。

私があまり心配や不安を感じずにいられたのは、父親という立位置だったからでもあると思います。母親は自分が生んだ子でもあるし、専業主婦で一日いっしょにいるわけだから、心配も強かったと思いますが、父親は日中は家にいないですから、ある程度は距離をもって受けとめられる立場ですからね。

「不登校になるかもしれない」ということを分かった上で、G1さんを見守る覚悟をしたというお父さん。それは、「この子なら大丈夫だ、やっていける」と自分の息子を信頼することができたから覚悟もできたということなのでしょうか? と尋ねると、こんな答えが返ってきました。

お父さん お父さん
いや、そうじゃないです。小学校を上がったばかりの子どもで、まだ自我もこれからできていくというところですから、その年齢の子に「この子ならやっていける」とか、そういうことを確認する、見抜くというようなことはね、それは無理ですよ。

小学校を上がったばかりだと、本人の性格や資質よりも、まだ周りの環境など、外部の要因による影響のほうが強いだろうと思っていました。その中で、息子が自分の力を発揮できる範囲というのは40%くらいだろうと。
その40%しか力を発揮できない年齢の子に「この子なら大丈夫だ」と考えるというのは無理ですよ。だから、「見守ろうと肚を決めた」ということですね。

それで、いざG1が不登校になったときに、「じゃあどうするか」ということについては、ふたつの考え方をしました。
ひとつは、転校先の中学校の先生が親身に考えてくださる方だったんですよ。それで中学の生徒さんがG1に声かけしに家に来たりしてくれてました。だから、学校の先生の力を借りて、中学校にもどって突破口を開くという道も、ひとつの方法としてあったかもしれないと思います。
結果的には、学校が解決にむけて取り組んでくれている途中の段階で、親側の判断でフリースクールに行かせるというということを決定したので、先生からすると、早めの決断をしすぎてるんじゃないか、という気持ちもあったかもしれません。

それともうひとつの考えとして、これから思春期を迎えて自立に向かっていこうという男を、家庭内だけで育て上げるというのは難しいだろうと考えていました。
母親が成長期の男の子と一日中顔をつき合わせることになるわけですから、それはたいへんだろうということは考えていました。

当時、G1は半年くらいは家にいて、閉じこもってゲームばっかりしてたので、親としてじりじりと焦れる時間も過ごしていたんです。
それで私も、会社の帰りに本屋に寄っては、親と息子の育て方の本とか、父親と息子の関係について書いた本とか、なにかヒントを得られないかと探したりしてたんですね。

するとそこで、全国のフリースクール一覧のリストが載った本を、たまたま見つけたんですよ。その中に、そう遠くない地域を調べていて、「ポニーといっしょに学ぶ」というコンセプトのハーモニィカレッジを見つけました。
G1は競馬が好きで馬の育成ゲームばっかりしてたので、それなら一度、本物の馬を見に行くか、と見学をかねて遊びに行ったんです。するとG1が「ここに行く!」と言いだしたんです。

だから、そもそもは、私や妻に息子をフリースクールに通わせるという考えがあったわけではなかったんですよね。親子の関係に関する本を探してたら、偶然にその棚にフリースクールの本があって馬のいる学校が載っていたので、見学に行ったところ、G1が「行きたい」と言いだしたと。
それで、「フリースクールに通わせる」という方向に一気に踏み出すことになったわけです。だから本当に偶然です。本屋でたまたま本を手にしたからですね

お父さんの「これから自立していこうという男を家庭内だけで育て上げるのは難しい」という言葉には、なるほど、と強くうなずいてしまいました。
中学生男子といえば、特に体格も発達して、精神的にも肉体的にもエネルギーが内側にぱんぱんにふくれあがっていくような時期です。

そういう時期の男の子を母親がずっと家の中でつきっきりで見守るというのは、相当に無理がある話だと感じます。体力的にも母親より圧倒的にパワフルになっていくわけですからね。
普通に中学に行って部活や友だちとの遊びでエネルギーを発散してても、まだエネルギーがありあまって反抗期を発動したりする時期に、家に閉じこもってゲームばかりしてる状態を、家族だけで抱えこむというのは根本的に無理があるように思います。

この件について、G1さんのお父さんはこんなふうに語っておられました。

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