理論社

第8回

2020.08.15更新

自分の道を見つけたい! 第8回 ここいろ篇2

高畑さん(さーちゃん) 高畑さん
(さーちゃん)
だけど、女の子のグループでそういう話をしたら、変な人だと思われるから言っちゃいけないって思ってました。笑われたりいじめられたりするって。小学生でも、そういう、「異物は差別されるぞ」っていう同調圧力的な空気というのは感じとっていましたね。

だけど、この頃はセクシャリティの問題よりも、家庭の問題のほうが私にとっては大きかったんです。
というのも、私が小学校3、4年生の頃、中学生になった4歳上の兄が問題行動を起こすようになって、父も母も大変そうになったんです。
今の知識でいうと兄は発達障害だったのですが、当時はそういう認識がまだよく知られていなくて、間違った診断で合わない薬を処方され、兄の状態はいっこうに改善せず、とつぜん屋根にのぼったりと、両親はいつも兄のことで走り回っていて、私はかまってもらえませんでした。お父さんもお母さんも大変そうで、自分の性についての悩みなんてもちろん話せなかった。

ずっと後になって、このときの私は、ものすごく「さびしかったんだ」ということに気づくのですが、このさびしかった気持ちとまっすぐに向き合う機会は、ずーっと大人になってから、とても重要な出来事としてやってきました。

セクシャリティの問題を抱えはじめたのと同時期に、高畑さんは家庭内も心を落ち着けられない場所になっていったため、学校でも家でも「本当の自分」を出せなくなっていきます。

この時代の高畑さんの救いは、外に遊びに出て、裏山で遊んだり川を渡ったりするような、「探検」をすることだったそうです。小学生時代は、現在の明るいお笑いキャラからは想像もつなかいほど、恥ずかしがり屋でひっこみじあんだったという高畑さんですが、体を動かすことは大好きだったとのこと。
そして、そういう探検遊びをするときはいつも、年下の小さな子とばかり遊んでいたそう。なぜなら、同級生の女の子たちは、オシャレやショッピングや、好きな男の子の話題に夢中だったから。
中性的で、しかも男の子の話ではしゃげない高畑さんには、同級生の女の子とは遊びづらくて、小さい子と野生的でヤンチャな遊びをするほうが楽しかったそうです。

高畑さん(さーちゃん) 高畑さん
(さーちゃん)
今でもはっきり憶えているのは、小学校3年生や4年生のころ、音楽の時間にずーっと「人はなんで生まれてなんで死ぬんだろう」って、ぐるぐる考えていたことです。

中学生になると、好きな男子の話題で盛りあがる女子達の輪から弾かれないようにするために、「あの子のこと好きだって云っておけばいいんだろうな」という男子を適当にみつくろって話題に参加していました。
それでも、好きな子の話をふられる事自体が嫌だったので、なんとかオチャラケキャラを作り上げて誤魔化していましたね。
「さーちゃんはそういうキャラだし、恋愛興味ないよねー」って思ってもらえると、恋愛の話題をふられずに済むんですよね。

誰にも言えない、ということが、とにかくいちばん辛かった。
やっぱり、自分でも「普通」でいたかったんですよね。
だから、女の子が気になったりするのはおかしいんだ、これは「思春期の気の迷い」なんだ、「どうやら思春期には男子も女子もどっちも気になるものらしいし」と、なにかの本で読んだことをむりやり自分に関連付けて、自分を納得させようとしていました。

そして中学生になると、兄の問題で家庭はさらに落ち着かない場所になっていきました。兄がしょっちゅう家から飛び出して、警察の人が家に何人もいる、といった状況をじっと見ていたのを憶えています。
そんな家なので、自分の性についての相談は誰にもできない日々でした。

スポーツ好きの高畑さんはバスケ部に入りますが、そこでは陰湿にひとりずつイジメをしていく子がいて、しんどくなって辞めたそう。辞めたことですごく楽になり、「辛いときは逃げてもいいんだ」ということを学ぶ機会になったとのこと。
けれど、部活はやめられても、自分自身をやめることはできないので、アイデンティティの問題で苦しむ時期は続きます。

学校の中で、「キャラ」を作ってなんとかやり過ごそうとする気持ち、よく分かる方も多いのではないでしょうか。私も中高生の頃は、「お笑いキャラ」を演じて、女子たちの間で居場所を獲得しようとしていました。
そして家ではずっと寝転がって「宇宙ってどうなってるんだろう?」と、人の生死を考えた高畑さんみたいに、宇宙の不思議についてばかり考えていたことを思い出します。
辛いから宇宙のことを考えるのでしょうか。それとも、宇宙や人間の生死のことわりの中に、「生きる上での辛さ」がもともと組み込まれているのでしょうか。あるいは、人間が自ら「苦しさ」を生み出しているのでしょうか。

第8回-1画像
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