セクマイノバーに参加してみた! 真面目にセクシャリティについて語り合える場がこれまでなかった。
ある日、私は絵本制作の取材のために広島に来ていました。取材相手の指定で訪れたカフェで、夜間にセクシャルマイノリティバー(略称・セクマイバー)なるものが開催されているということを知り、参加してみることにしたのです。
このバーのイベントが、とても素敵で楽しかったので、驚きました。
ゲイやレズビアンの方が集まるバーというと、どういう場を想像するでしょうか?
テレビなどでよく見かけるように、メイクをしたゲイの男性が面白おかしくトークをする、なんて光景が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
ゲイの方って、濃密な人生経験がものをいうのか、「トーク」がとても上手い方が多いですね。
けれど私は、「オネエ」という言葉で自らを表し、きらびやかに飾る彼らのパワーには、憧れや尊敬を感じると共に、隣に座っただけで圧倒されてしまいそうだな、なんてことも感じていました。
世の中には、私のように、ショービジネスや芸能人、あるいは夜の蝶のごとく生きる方々の集う場だと腰が引けてしまう、という人も多くいるんじゃないでしょうか。
特に、自分の性について一人で悩みを抱え込んでいるティーンエイジャーには、同性愛者の間で有名な「新宿二丁目に行ってみる」なんて、かなりハードルが高そうです。
また、私はかねてから「自分はけっこう女の人に目がいくなあ」という漠然とした意識があり、レズビアンの方に会ってみたいと考え、レズビアンの集う場をネットで調べたことがあるのですが、その時は、クラブで踊って飲みあかすような、出会い目的のパーティしか情報が出てきませんでした。
「そういうノリじゃないんだよな〜」と、どうもかゆいところに手が届かない感じです。ただ「知りたい」「考えたい」「分かりたい」「出会って語り合いたい」という場が、なかなかみつからなかったのですよね。
そんな中、私が訪れたセクシャルマイノリティバーは、「真面目に、気軽に、楽しく語り合いたい」という要望に、ずしっと応えてくれる場だったため、驚いたのです。
参加は、セクシャルマイノリティの当事者はもちろん、セクシャルマイノリティについて知りたい方や関心のある方なら誰でもウェルカム、とのことだったので、私も「自分がいていいのかな」なんて気後れすることもなく参加することができました。
10名程の参加者だったのですが、非常にバラエティ豊かなセクシャリティの方が集っていました。
社会経験豊富な中年以降の方もいれば、20代、30代もいるし、高校生も来ていました。年代はごちゃまぜです。さらには、我が子が性自認に悩んでいて、自分の子のことを理解するために体験者の話を聞きたくて、という親御さんもいました。
ある人は、女性として生まれたものの性別適合手術をし、「オッパイ取っちゃった〜」と自己紹介されていたのですが、見た目はスポーティで爽やかな男前で、こりゃあ女の子は惚れてまうわ〜と、目線が釘づけになってしまいました。
私は「男前」にあまり興味がない方なんですが、「目の前にいる、いかにもスポーツ男子という感じの爽やかな彼は、元は女性なんだ……」と思うと、不思議な倒錯した世界感に心が誘われて、ひときわ魅惑的に感じられ、ドキドキしました。いったい、この魅了性の正体とは何なのだろう、としばし考えてしまいました。
今現在、私は異性のパートナーがいる状態ですが、多様な性の人達の魅了性を目の前にすると、自分の性指向や恋愛観に関して、足場がぐらぐらと揺らぐ気がしました。
そういえば昔から、マンガの『ベルサイユの薔薇』を読んで、男装の麗人オスカルにときめいたりしていました。
また、戦時中を生きた川島芳子という方は、清朝の皇族でありながら日本人の養女になった人物なのですが、「東洋のマタ・ハリ」とも言われ、この時代にはたいへん珍しい、男装の麗人でした。髪を短くまとめ、男の軍服を着て、「ぼく」から始まる手紙や短歌を多く残すこの人物の姿に不思議に魅せられて、歌集や書簡集(手紙を本にまとめたもの)を読みあさったこともあります。
性別が混ざり合ったところに立つ人物に感じる魅力や奥深さについて、私はとっさに簡単に語ることができない心地がします。
セクマイバーでは、そういった人間の複雑な「好ましさ」や「恋愛観」や「魅了性」の感性についての踏みこんだ話も、タブー感なく柔軟に語り合える空気がありました。
以下は、参加されていたゲイの方の言葉です。
「あたしたちゲイってさ、『男らしさ』っていう概念にさんざん虐められて辛い思いさせられてきたってのにさあ、ラグビー選手みたいな、いかにも『男らしい』って男が大好きだったりするのよ〜。なんでかしらねえ、まったく。人間って、複雑でよく分からないわよ。でも、よく分からないから、人間を研究するのって面白いのよねえ」
なるほど至言、と思わずぶんぶんと首を縦にふってしまいました。
そして、このセクマイバーについて、なによりも素晴らいと思ったのは、参加している方がみんな、誰の話もバカにしたり、嘲笑ったり、否定したりせずに、真面目に、笑いも涙もありで語りあえる、というなんとも心地良い空気を感じられたことです。
「こんなこと言ったら変に思われるかな」「これって聞いてみたいけど、タブーな質問かな」なんて具合にビクビクしないで、くつろいだ気持ちで他の人の話が聞けるし、思い切って自分の考えや感じ方を打ち明けられる雰囲気がとても心地よかったのです。
カフェ・ハチドリ舎の安彦さんの声かけから始まったというセクシャルマイノリティバーを、共催者として、また、セクシャルマイノリティの当事者として盛りあげているのが、當山さんと高畑さんのお二人でした。
参加者が、なごやかなに自由に性について語りあえる空気感の場を作り上げているお二人に、私はぜひお話を聞いてみたいと思ったのでした。