理論社

第5回

2020.07.01更新

自分の道を見つけたい! 第5回

大人の力を使って子どもを変えさせ
大人の目の前の体裁だけ整えてもなにも変わらない

大堀貴士さん(シュート) 大堀貴士さん (シュート)
障害のある子がいてくれたから、他の子どもたちが育ったという場面は、もういっぱいあるよ。

例えば、キャンプに来てた知的障害の子で、たーくん(仮名)という子がいたんやけど、この子が、好きと思った子に対して、なりふりかまわず突進していくような子やったんよ。うわ〜って走って、めっちゃその子に向かっていくんよ。
そしたら女の子たちは、「きっしょー!」「お前、くんな!」とかって、めっちゃキツい言い方をするねん。大阪の女の子やから、きっついんよ。

でもたーくんは、「きっしょー」と言われても、あっちの子こっちの子と、どわ〜っと向かっていくねん。あっちに行っても「きっしょー!」、こっちに行っても「あっち行け!」と、どこ行っても弾かれてキモがられるんよ。
そういうの見ると、可哀相な気持ちになるんやけど……。
でも、女の子たちの嫌やっていう気持ちも分かるやん?
そして、たーくんの気持ちも分かる。

どっちも悪いわけじゃないやん。たーくんが「好きで遊んで欲しい」という気持ちの表現をうまく出来ないだけで。
でも、それを「我慢して受け入れてあげてよ」っていうのも違うし。
オレは心が痛くて、「そういう言い方されたら、オレやったら悲しいなあ」と言うけど、女の子たちは「えー、だってきしょいもん!」と返してくる。 残酷やなあと、辛い気持ちになるよ。

もちろん、「そんなんやったらアカン」とか言うて、やめさせることはできるよね。でも、やめさせたところで、それって根本の部分は変わってないわけやん。 大人の力を使ってやめさせたところで意味がない。
そうやってオレの目の前だけ体裁が整ったら、自分は嫌な気持ちを感じなくて済むようにはなるよ? でもそんなん、嫌なものを見なくてよくなるのは、オレだけやん。 だからオレは、「オレはこう思うよ」という、I(アイ・私)メッセージしか伝えられない。

辛いなあと思いつつも状況を見守ってたら、たーくんが、ひとりの中学生の女の子のほうに、また向かって行ったんよ。 その子はキャンプの中でもみんなの憧れみたいな子やってん。馬も上手に乗れて、可愛くて、女の子たちからも憧れられてるような子。
で、たーくんがダーッと突進していったらさ、その女の子、たーくんのことを抱きしめたんよ。そして、
「たーくん、みんなからあんなん言われたら、嫌やんなあ」
と言うてん。
その瞬間を、みんなが見てたんよ。

すると、今まで「きっしょー!」って言うてた女の子たちの中に、「あれ、なんかまずいことしちゃったかな」という空気が流れた。 中学生の子は、それ以上なにか言った訳じゃないよ。それでも、きしょがってた女の子達も、いろいろ考えたんやろうなあ。 その一件以来、たーくんがきしょがられへんようになってん。 みんなが、たーくんが突進していっても、冗談っぽく返せるようになっていったんよ。
すると、たーくんも楽しそうだし、女の子たちも、自分の心が痛まない感じの空気ができていった。
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