理論社

2020.06.15更新

自分の道を見つけたい! 第4回

大堀貴士さん(シュート) 大堀貴士さん
(シュート)
悔しい思いをしてよく憶えてることがあって、寄宿生よりも、親との関係に難しさを感じたなあ。

ある子が、寄宿塾に来て三年位いたかな、家でずっと引きこもっていた子で、来たときはすごい無気力だった。その子が時間をかけて少しずつ前向きになって、自分のやりたいことを見つけられるようになっていって、夢を語れるようになってきたんよ。じゃあ寄宿塾を卒業して家に帰って頑張ってみようかということになって家に帰っていってんけど、すると親から「数ヶ月経ったら、また元みたいに無気力に戻って引きこもりになってしまった。この子はやっぱり、いくら時間かけても治らないんですね」と言われて……。

そのときは、ちょっと待ってよ、と思った。「治らない」というのは、まるでその子自身に問題があるかのように親御さんが考えてしまっていないか、と。寄宿塾で過ごして少しずつ元気になっていったのが、家に戻った途端にまた無気力になったんなら、その子にだけ問題があると言えるのか? と。 親御さんがその子のことをありのままに受けとめてくれたら、その子自身も自分のありのままを許して受け入れることができて、免疫力も高まって自分で自分を癒やす力が内側から湧いてくるんじゃないか、と。親御さん自身が考えや態度を変える必要があるんじゃないのか、と思った。

その子に責任があるとか、その子自身に問題があるわけじゃなくて、親や環境の問題じゃないのかと言いたくなった。でも、当時はオレ自身がまだ自分の考えが正しいのか自信が持てていなくて、論理的に説明できなかったのもあって、親御さんにきちんと伝えることができなかった。その子のことを守ってやれなかったという思いで、すごく悔しかった。

親は子どもを寄宿塾に入れるのに生活費などのお金を出すわけだから、「自分はやるだけのことをやっている」と思うのかもしれない。親としての責任は果たしてると思いたいのかもしれない。「こんなにお金と時間をかけてる、子どものために自分は一所懸命働いているんだ」と。でも、親自身の考えや態度が変わらないことが、子どもを追い詰めていることだってある。

あれはすごく悔しかった。結局は、寄宿塾に入るためのお金を出すのは親やから、親がダメだというとこちらはもう手が出せないから。守ってあげられなかったという思いが、ずっと残ってる。

どんな事も、ひとつの方法論で全ての人が救われたり良くなるということはなく、ひとりひとりに個別のレシピが必要なのが人生なのではないかな、とも思います。 仏教用語に「応病与薬」という言葉がありますが、「すべての人は、生まれも育ちも国も人種も性別も、現在の環境も、ひとりひとり背景が全く違うのだから、百人いれば百通りの、生き方薬の処方箋が必要なのですよ」というほどの意味です。

大堀さんが「守ってあげられなかった」という子も、もしかしたら他に出会うべき人や、たどるべき道筋があって、別の道に向かうことが必要だったのかもしれません。あるいは、その後に結果的に、親子でじっくりと向き合う時間を持てたのかもしれません。進んだ先の道で良い出来事に出会ってくれていたらと願うばかりです。

ひとりひとり必要な処方箋が違うからこそ、学校のような公教育の場以外にも、さまざまなタイプの「居場所」が存在することが大事ではないかな、と感じました。ハーモニィカレッジのような場も、そうじゃない方針や考え方の場も、「自分に合うのはこれだ」と選べる状態があるといいなと思います。

もしも私が中学生くらいで不登校になってハーモニィカレッジに通っていたら、相性が良かったかどうかは分からないと思うのです。なぜか競馬大好き中学生だった私は馬は好きだったのでその点は合いそうですが、今ではすっかり森や山といった自然が大好きなのに、思春期頃はのどかな自然の風景にまったくピンと来てなかったからです。
そういうタイプの子は思い切って外国に行ったり、あるいは職人修行をしてみたり、旅をしてみたり、なにか他の方法や場が合うのかもしれません。

思えば私自身、どこかしら生き辛さを感じて苦しんでいた時期には、目に入ることでピンと来ることはなんでも手を出していたように思います。そんなふうにジタバタしていた時間のすべてが、ふり返ってみると必要な体験で、なにも無駄になったことはないように感じています。慌てて焦ってあがいて動き回った時間も、諦めてふて腐れたように休んでいた時間も、どっちも必要で、味わい深い時間でした。
どんな道でも、一歩踏み出してみると、それまでとは違う景色に出会えて、なにかを知ることができるんじゃないかなあ。
生きる上で「間違った道」なんて、人生にはないんじゃないかな、なんてことも思います。


次回は、ハーモニィカレッジ倒壊の危機に際し、障害をもった子のお母さんが、大堀さんの価値感をまたもや大きく変えてくれたお話をうかがっていきます。

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