「さあ、なにをしようか」から始まる遊び
子どもたちの根っこを深く育てるものとは
馬と共に生き、さまざまな背景を持つ子どもたちと共に在る生き方を選んだ、大堀貴士さんにお話をうかがっています。
高校生までは「カッコイイ大人」になるために、良い企業に就職してお金を稼ぎまくろうと思っていた大堀さんでしたが、友人との出会いで「カッコイイ」の定義が変わったとのこと。その後、大学を2年も留年してしまいますが……。
自分で作った「小さな牧場」を誇る「大きな手」の持ち主
(シュート)
だから、スーツ着てバリッとしてるようなカッコ良さには、興味が薄れていった。そういうカッコよさは、ちょっとしたことでベリッと剥がれてしまうタイプのカッコよさで、本物じゃないなと思うようになってたから。
で、留年してしまったというマイナスの2年を、後から人生ふり返ったときに、「この2年のおかげで良い人生になった」と言えるようなプラスのものに変えようと思って、「今までやったことないことをしよう」と動きまわったんよ。その一環として、いろんな社会人に会ってお茶してもらったり、話を聞きに行ったりもしてたんよ。それがオレの就職活動でもあった。
そういうことを意識的にやってるときに、後輩に(現在は共にハーモニィカレッジのスタッフである中野裕道さん)に、「どうしてもシュートに会わせたい人がいる」と熱心に言われて、「そんなに言うなら」と、ボランティア仲間数人で連れだって鳥取に行ったんよ。そこで、ヒロさんに出会った。
はじめて会ったとき、ヒロさんはグッと力強く手を握ってくれたんやけど、まず、そんな握手をしてくれる大人に出会ったことなかったし、めっちゃ大きい手やなと衝撃を受けた。
当時、馬小屋を手作りしてたし、土木作業をしてる人、手仕事人の手というのかなあ。格好はティーシャツにジーパンに長靴とかで、ぜんぜんイケてる感じじゃないんやけど、とにかく目が少年のようにキラキラしてる人やなあと思った。
で、「牧場」があると聞いてたんで、馬のいる所に連れて行ってもらったら、畑の中にちょっとした小屋があって、馬が四頭いるだけでさ。普通、牧場と言われて想像するような広い草原とか、そういうのがなんにもないのよ。
こっちは内心(えっ、これだけ?)と思ってるんやけど、ヒロさんは、「どうだい、いいだろう」って、めっちゃ嬉しそうに、誇らしそうに言うのよ。
現在の空山ポニー牧場に移転したハーモニィカレッジは、一見して「なるほど牧場だなあ」と感じる広さがありますが、はじめは畑の中に手作りした、ごく小さな牧場からスタートしたようです。
ヒロさんの手の大きさに驚いたとのことですが、大堀さんの方が体格は大きいです。「実際のサイズとは関係ない、エネルギーの大きさみたいなものを感じたんやろうなあ」とのこと。 「初対面でビビビッと電撃が走って、この人と結婚すると思った」なんて話を耳にすることがありますが、大堀さんとヒロさんの出会いも同じようなものだったのかもしれません。人は運命の人に出会うと、何らかの信号をキャッチすることがあるようですが、そういう相手は恋愛の相手とは限らないみたいです。
「人間の魅力って、学歴でも、資格でも、功績でもない」との言葉。こういうことは、頭では分かっていても、肩書きや業績などの表層的な価値で判断してしまうことから、人はなかなか逃れられないように思います。私自身、表層的な価値で人を判断してしまっている自分に気づいて、自分の未熟さを知ることが度々あります。
「外見、お金、名誉、業績、学歴、家柄、そういったものを全部ひっぺがしたら、自分にはなにが残るだろう?」そんなことをうんうん考えていると、「おっちょこちょいでよく失敗するけれど、割と人から笑ってもらえたりもする性質」が、奥底からぼんやり浮かび上がってくるような気がしました。
一見さえない性質のようだけど、どうもこの「ひょうひょうとした性質」こそが、自分の本質的な魅力のような気がしてきます。だって、おっちょこちょいでよく失敗する人がそこにいると、安心感やユーモアが自然に生まれる気がするんです。そんなふうに考えてみると、人間の魅力ってかなり彩り豊かなんだな、ということが見えてくるように感じました。