理論社

2020.05.01更新

自分の道を見つけたい! 第1回

大堀貴士さん(シュート)
大堀貴士さん(シュート)

第1回目〜6回目まで、鳥取で馬を通して子どもたちと関わっている特定非営利活動法人ハーモニィカレッジ理事長の大堀貴士さん(ハーモニィカレッジでの通称はシュート)にお話をお聞きします。

青空と風、草と馬
鼻面を寄せてきて、なにも言わずじっと見つめてくる馬たち

大堀貴士さんが現在理事長を務めている鳥取のハーモニィカレッジ。私はこちらに約20年ほど前に、一度友人に連れられてうかがったことがありました。

その頃のハーモニィカレッジには、馬たちのいる「牧場」があって、当時の理事長の家に不登校の子たちが寄宿し、スタッフ共々家族のように暮らす「寄宿塾」を営んでいました。その他に、外部から馬のお世話や乗馬を習うために小学校〜高校の子たちが通ってくるポニークラブを開いていて、季節毎には、ポニー合宿をしに来る子どもたちを迎える、キャンプ事業も行っていました。

当時は石井博史さん、通称ヒロさんという方が理事長で、スタッフは大堀貴士さん(ハーモニィカレッジでの通称はシュート)と、もうひとりの男性スタッフの中野裕道さん(通称ちょろ)と、寄宿生の食事を主に担当する、ヒロさんのパートナーである優ちゃん、という少人数で運営されていました。

現在ではスタッフも増え、大学生のボランティアスタッフ(子どもたちと一緒にキャンプをするというキャンプカウンセラー活動サークルの学生)がたくさん来て、馬の世話や子どもと一緒に過ごす役割を担っています。

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初めてハーモニィカレッジにうかがった当時、私は大学を出て1、2年がたった頃で、寄宿舎にいる不登校の子たちを見ても、「へえ、みんなで一緒に暮らしてるんだ。大家族みたいだなあ」とぼんやり思った程度でした。

ところが、それから月日が流れて自分自身が「生きる道」に惑いを感じるようになると、ふいにハーモニィカレッジで見た光景が胸に浮かびあがってきたのです。もしかしたら、何らかの理由で一般の教育制度から離れた不登校の子たちは、自分よりずっと若い時期に、真剣に「自分の道とはなにか」ということと向き合っている人、あるいは向き合わざるを得なくなった人たちじゃないか、と思ったからかもしれません。そういった子たちの姿には、なにか大切なヒントが埋まっているんじゃないかという気がしました。

そんな漠然とした思いから、自分の道を歩むことについてのヒントを得られないかと思い、大堀貴士さんにお話をうかがいに行ったのでした。

約20年ぶりにハーモニィカレッジを訪れた私をまず迎えてくれたのは、数の増えた馬やポニーと、きゃっきゃと走りまわる幼稚園児くらいの子どもたちでした。

青空が広がる新緑の季節で、ハーモニィカレッジのある空山ポニー牧場全体が鮮やかなグリーンにおおわれ、心地よい風が吹き渡っていました。馬たちは馬房の中で耳をそば立ててこちらをうかがっていたり、広い敷地の柵の中でのんびり過ごしたりしています。
柵のそばに行くと、あちこちから大きな馬や小さなポニーが私のもとに近寄ってきてくれました。

「こ、こんにちは、きょ、今日はよろしくお願いします……」

私は人間と対面するよりもずっと緊張して、上ずった声でそれぞれの馬に挨拶しました。だって馬って、人の心をすっかり見抜いてしまう飛び抜けて賢い動物のような気がするじゃないですか。ぐいっと鼻面を近づけて大きな瞳でじっと見られると、「君はまだまだ未熟だね」なんて思われてるんじゃないかと、ひやひやしました。

馬たちはそっとこちらに鼻面を寄せ、じっと見つめてきます。「誰だこいつ?」と観察しているようでもあり、怖がらせないように気をつけてくれているような優しさも感じます。緊張がしだいにほぐれてくると、静かで穏やかな空気を感じられるようになりました。なにか伝えたいことがあるのかなあ、と思い言葉にしてたずねてもみましたが、馬たちはただ黙って大きな瞳でこちらを見つめているだけです。もしかしたら単に、「そこの草をおくれ」と言っていただけなのかもしれません。
小さな子どもたちが駆けてきて、「馬はねえ、この草が好きなんだよ」と、近くの草を引き抜いて根や土を落とし、「あげてごらん」と手渡してくれたのでした。

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初代理事長はヒロさんこと石井博史さんで、大堀さんは2代目理事長です。なぜ大堀さんが2代目に就任したかというと、2011年にヒロさんが59歳で亡くなってしまったからです。
この、今は亡きヒロさんとの出会いこそが、大堀さんが人生の軌道を大きく変え、「心から生きたい道」を見つける分岐点になったとのことでした。

ヒロさんが闘病生活に入る少し前に、不登校の子たちと共に暮らす「寄宿塾」は閉じられましたが、この寄宿塾を営んでいた時代は大堀さんにとっても深い学びの時代だったようで、「いつか寄宿塾を復活させたい」と夢を抱いています。
そんな大堀さんが、「これが自分の道だ」というものを見つけていった過程や、寄宿塾時代のこと、キャンプ活動に来るさまざまな子たちとの出会いを通じて得たものについて、うかがいました。

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